天満つる明けの明星を君に【完】
「あれ?朔兄が居なくなっちゃった…」


「兄弟仲が良いんですね」


一緒に池の鯉に餌をやっている間に朔が居なくなっていて、天満がきょろきょろしていると、雛菊は水色の着物の帯から白い扇子を取り出して顔を扇いだ。


「あ、ごめんなさい暑いですよね。あっちに戻りましょう」


つい話に夢中になってしまったことが自分でもおかしくて首を傾げた天満は、自然と雛菊に手を伸ばし、雛菊は頬を赤く染めながらその手を握った。


「僕たち日中いつもあの青い男と取っ組み合いしてるから陽に慣れてて気づくのが遅れてごめんなさい」


「日中も身体を動かせるなんてお強いんですね。私はあまり得意じゃなくて」


「僕たちが半妖だからかな」


――半妖ということを卑下ているわけではないが、一部の妖からは良く思われていないことは知っている。

特に人を食う系の妖からは目の敵にされているため強くなるまでは出歩かないようにと言われている天満たちは、半妖であることを恥じてもいないし、むしろ誇りに思っていた。


人である母を諦めず強く求めた父のことも、誇りに思っていた。


「朔兄ひどいじゃないですか、僕を置いてくなんて」


「いや、話が弾んでたみたいだったから。天満、今日は屋敷に泊まっていくそうだから、後で町に連れて行ってやろう」


「雪男を護衛につけるから安心して行って来い」


雛菊の顔が輝くと、何故か自分も嬉しくなった天満はこくんと頷いて雛菊の父に頭を下げた。


「僕たちがちゃんとお守りしますので」


「いえいえ、心配などしておりませんよ。よろしくお願いいたします」


いかつい顔に見合わず人の好さそうな笑顔を見せた雛菊の父は、気付かれない程度に天満を見極めようとしていた。


朔が駄目なら――天満でもいいかもしれない。

優しそうだが才のありそうな美貌の天満が娘を気に入ってくれたならば、嫁に出してもいいと思っていた。
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