天満つる明けの明星を君に【完】
裏方は大わらわになっていた。

料理の注文が次々に入り、ばたばた走り回っている中で天満はかなり手応えを感じて客らに愛想笑いを振りいてぽうっとさせながら通用口を歩いていた。


「て、天満様!来ました!」


番頭が血相を変えて呼びに来ると同時に、出入り口で何やら歓声のようなものが聞こえて朔が来たのだと分かると、天満は小走りで向かって客らに遠巻きに見られている兄に笑いかけた。


「朔兄!」


「天満、約束通り来たぞ。見違えたものだな」


朔は見られることに慣れていて、どれだけ熱心に見られようとも器用に目を合わせることなく天満に歩み寄って肩を叩いた。

するとまた歓声が沸いたのだが――居心地の悪さを感じているのはどうやら自分だけのようで、もちろん朔の護衛でついて来ていた雪男に頭をぐりぐりされた。


「お前やっぱりやればできる子だったな」


「僕も頑張ったけど、雛ちゃんの方が大変だったと思う。ていうか童扱いやめてよね」


――妖の容姿は強ければ強いほど美しく、雪男は秀でて美しかった。

真っ青な髪と真っ青な目、真っ白な肌――朔の隣に立っていてもひけを取らず、普段見慣れていてあまり気付かなかったが、朔と同じように注目を浴びていても気に留めていない様子で、肩を抱いてきた。


「で、部屋は?」


「用意してあるよ。最上階の一番いい部屋をね」


「おお、気が利くなお前!じゃ、再会の記念に一杯やるか」


朔は終始微笑んでいた。

いつも背中に隠れてまごまごしていた弟が、背筋を伸ばして堂々としている――

幽玄町から出すことについて最初は不安だったけれど、弟は成長したのだ。


「天満、積もる話が沢山ある。まずはお前と雛菊の話を聞こう」


根掘り葉掘り訊いてやる。

…朔の目がそう語っていて、苦笑した天満は朔の背中を押しながら部屋に案内した。
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