天満つる明けの明星を君に【完】
真っ赤な夕焼けがきれいで、皆で空を見上げながら屋敷に戻ると、すでに庭には百鬼たちが集結していて、雛菊はその異様な光景に足を竦ませていた。

百鬼と呼ばれるからには、もちろん百以上の種類と数が揃っていて、人型も居れば獣型、よく分からない形の妖も居る。

全ての百鬼が人と妖の懸け橋となると決めた鬼頭家当主の理念に共感して従い、集まって来た者たちのため、それぞれがとても強く、彼らにじろりと睨まれた雛菊は天満の背中に隠れた。


「坊ちゃん、どちらのお嬢ちゃんで?」


「父様の客人のご息女だ。失礼のないようにしろ」


「つまり?坊ちゃんの嫁候補で!?」


わあっと声が上がると、彼らから坊ちゃんと呼ばれている朔はため息をついて首を振った。


「違う。怖がるからこっちをじろじろ見るな」


おお怖い、と言われた朔が庭に通じる障子を閉めた。

居間の巨大な食卓には様々な料理が並べられてあり、この家の客人は必ずこうして人の食事を振舞われる。

それでもやはり雛菊は珍しかったらしく、息吹は雛菊の肩を抱いて隣に座らせた。


「雛ちゃんは好き嫌いない?」


「あの…はい、ないと思います」


「じゃあ一緒に食べよっか。食べ方教えてあげるね」


母を亡くしている雛菊は、息吹のとても優しい笑顔を見てふいに涙が零れそうになって俯くと、おずおずと箸に手を伸ばした。


「はい、教えて下さい」


百鬼夜行に出る前は必ずこうして一家団欒で夕餉を楽しむ。

これは古くからの慣習であり、夜は百鬼夜行、朝に戻っては来るが昼間まで寝ていることの多い十六夜と触れ合える貴重なひと時を天満たちは大切にしていた。


「朔兄、これあげます」


「あげるじゃなくてお前が嫌いなだけだろ。ちゃんと食え」


「これあげますから、これ下さい」


「それ俺の好物。返せ」


兄弟げんかをしつつ、雛菊が息吹に教えられながら食べているのを見ていると、いつも以上に食が進んだ。
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