天満つる明けの明星を君に【完】
十六夜が百鬼夜行に出た後、息吹と雛菊は恐ろしく広い風呂にふたりで入り、仲良くなった朔と天満も呼び寄せて客間に四人分の床を敷いた。


「今日はみんなで寝よ。雛ちゃんのお父様は雪ちゃんが見てくれてるし、如ちゃんは母様が見てくれてるから心配しないで」


息吹が母様と呼んでいるのは山姫という名の妖で、息吹が赤子の頃幽玄橋に捨てられていたところを拾ってきて育ててくれた親代わりだ。

結果十六夜の百鬼である山姫と十六夜が育てることとなり、今の息吹が居る。


朔たちも毎日ありったけ戦い、ありったけ食べてよく寝るため、風呂に入った後は大抵うとうとしてしまって寝るのが早い。


「ねえ天ちゃん、雛ちゃんの櫛を選んであげたんだってね。よくできたね。いい子いい子」


「えへへ…櫛を選んだのなんてはじめてだったから緊張しました」


息吹に頭を撫でてもらいながら照れた天満は、早速その櫛で髪を梳いている雛菊を見て頬を緩めた。

息吹は目聡くそれに気付きつつ、ふたつの床をひとつにくっつけて雛菊と寝転んで鈴虫の鳴き声に耳を傾けながら夜空を見た。


「雛ちゃん、今日楽しかった?」


「はい、とっても。天満様たちと親しくして頂いて…一生の思い出になりました」


「そっか、また遊びに来てね。天ちゃんとっても喜ぶと思うから」


「母様、どうして僕だけなんですか?朔兄だって喜びます」


喜ぶのは否定しないんだな、と内心爆笑していた朔は、両手を広げて大きな欠伸をした。


「天満のお嫁さんになればずっとここに居られるのに」


「えっ!?さ、ささ朔兄、なにを言うんですか!」


ぽっと頬を赤く染めた雛菊もまんざらではなさそうで、息吹は雛菊に覆い被さるようにして両頬をむにっと引っ張った。


「雛ちゃんそうしたら!?天ちゃんもきっと喜…」


「は、母様まで!からかうのはやめて下さい!」


このふたりはうまくいくかもしれない――

明日十六夜が戻ってきたら報告してどうするか決めてあげよう。


息吹はにまにましながら雛菊を抱きしめた。

雛菊は息吹に母を感じて、ぎゅっと抱き着いて目を閉じた。


あたたかい家族だ。

憧れていた団欒の日々がここにあり、明日なんて来なければいいのに、と願ってしまった。
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