天満つる明けの明星を君に【完】
祝言への準備が始まり、数日後幽玄町の者たちにも鬼頭の者が所帯を持つことが伝達された。

元々は罪人を集めた町であり、いわば恐怖政治でもってこれ以上の悪事を許さず良心を得られるようにと代々幽玄町の運営を行ってきた。

もちろん今も彼ら住人にとって妖はとてつもなく怖い存在ではあるが、逆に言えば悪事を働かなければ食われることもないし守ってくれる存在だ。

罪人が幽玄町に流され、そこで子を育み、子が成人すれば幽玄町から出て行けるが――皆が町の住みやすさを絶賛して離れてゆく者は少ない。

そんな住人たちは、町を守ってくれる頼もしい一族の者が祝言を行うと聞いて恐る恐るではあるが続々と祝いの品を献上しに殺到していた。


「反物にお魚にお肉にお化粧道具…わあ、すごいね、みんな天ちゃんと雛ちゃんを祝ってくれてるっ」


玄関に行き着くまでの間に門があり、人が侵入できるのはそこまでだ。

朔たちは滅多に人前に姿を現すことがないため、結局貧乏くじを引いた雪男が彼らの対応にあたり、手の空いている百鬼たちが祝いの品をせっせと客間に運び込んで山ができていた。


「おお…す、すごいね」


「朔ちゃんがお嫁さんを貰う時はもっとすごく高い山になるかもね?」


じわりと息吹に詰め寄られた朔が苦笑していると、雛菊は縁側に座ってそれをそわそわしながら見ていた。


「あの、私…本当に何もしなくていいんですか…?」


「いいのいいの、雛ちゃんは本番が控えてるんだから身体を労わってあげてね」


祝言を明日に控え、皆がどたばた動き回っていた。

晴明の薬のおかげなのか天満が傍に居てくれる安心感からなのか――悪阻も苦しくなくなり、まだちっとも膨らんでいない腹を撫でた雛菊は、息吹が庭の一角に作っている花畑から香る花の匂いを目を閉じて楽しんでいた。


――こんなに幸せでいいのだろうか?

自然と笑みが零れて、春の優しい風を浴びて何度も腹を撫でた。
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