天満つる明けの明星を君に【完】
夕暮れが近付くと百鬼たちが集まり始めるため、物珍しさからかその時間帯は縁側に居ることの多い雛菊のために天満は綿入りの羽織を着せて抜かりない体制を取っていた。

この屋敷の庭は広大で、歩いても歩いても奥の方が分からないほど広い。

最奥には蔵があり、代々の当主しか入れないそうだが、そこまで歩き切ったこともなく、いつかは踏破しようと意気込んでいたところ――

庭の奥の方からひょっこり人影が現れて、きょろきょろしているのが見えた。

…百鬼に人型の妖も居ることは居るが…何やら様子がおかしく、目を細めて何をしているのか見てみると、頬をかいていたその者…恐らく男が、こちらに気付いてじっと見つめているのが分かった。


「て、天満さん、天満さん…」


よもやこの屋敷に不法侵入できる者がいるとは思っていないが…それでも不安に駆られて天満を呼ぶと、ちょうど朔と何かの打ち合わせを別の部屋でしているようで、焦りを覚えた。


「雪男さんはどこに…」


何より気配に敏感な雪男が呼ばれたかのように雛菊の傍に来ると、雛菊は無言でその男を指して雪男を驚かせた。


「あれ!?お前…なんでここに?」


「雪男さん、あの…どなた…」


「えーと、あいつは…」


雪男がごにょっている傍からその男がゆっくり近づいて来て、その顔を見た雛菊は茫然として雪男の袖を引っ張った。


「先代様…!?え、でもさっき息吹さんと他の部屋に…」


「違う違う、あいつはここん家の子なんだ。あっれえ?この前出てったばかりなのにどうしたんだあいつ」


――では天満の弟なのだろうか、と思った時、朔と天満が相次いで縁側に駆け込んできて弟の名を呼んだ。


「星彩(せいさい)!」


「………?あれ…ここやっぱり実家だったんだ…」


ぼんやり。

先代――十六夜とそっくりな顔をした冷淡な美貌の男は、ぼんやりしたことを言って朔たちを苦笑させ、雛菊を茫然とさせた。
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