天満つる明けの明星を君に【完】
星彩という名の四男は、若かりし頃の十六夜に瓜二つの容姿だった。

違う所といえば十六夜は肩まである長い髪を結んでいるが、星彩は短くてどこか茫洋としている印象が強い。

黒い着物に白い帯という出で立ちでまるでぶらりと散歩に出たかのような感じに見えたが――


「星彩…お前また迷子になったな?」


「ま…迷子!?」


思わず雛菊が素っ頓狂な声を上げてしまって慌てて口を両手で覆うと、星彩はゆっくり頷いて頓着なく雛菊の隣に腰かけた。


「……ちょっと散歩に出たつもりが…」


「ちょっとって距離じゃないよ、お前は筑前の方を任されてるだろう?どうやったらぶらり散歩の距離になるんだ」


天満が呆れていると、星彩は真っ黒で切れ長の目でちらりと隣の雛菊を撫でると――おもむろにその手をぎゅっと握った。


「!?あ、あの…っ!?」


「……緊張してるなって思って…」


「え!?あ、あのそれは…はい…」


やはり冷淡な美貌で声も温度が低かったが、星彩の手はとても温かくて何故かとても心が落ち着いて、思わず吐息が漏れた。


「ああ雛ちゃん、この子は僕の下の弟で、ちょっとなんていうか…見た目と違って中身はやや残念っていうか…」


「星ちゃん!」


騒ぎを聞きつけた息吹が駆け込んでくると、星彩はにこっと笑って正直に打ち明けた。


「……散歩をしていたらここに着いちゃって…」


それはこの家では当たり前なのか、息吹は驚きもせずに星彩の頭を撫でた。


「そっか、でもちょうどよかった!天ちゃんがお嫁さんを貰ったから祝言に参加してくれるよね?」


嫁…と小さく呟いた星彩にまたじっと見つめられてどぎまぎが止まらない雛菊は、天満の背中に隠れながらぺこりと頭を下げた。


「よろしく…お願いします…」


「……はい」


変な弟が現れた。
< 223 / 292 >

この作品をシェア

pagetop