天満つる明けの明星を君に【完】
朔は百鬼夜行に出て行かなければならず、ひょっこり迷子になって戻って来た星彩と共に夕餉を食べた雛菊は、何故か隣に陣取られて時々ちょいちょいと手に触れてくることを不思議に思っていた。


「こら星彩。雛ちゃんが驚いてるから触る時はちゃんと言うんだ」


「……ごめんなさい…」


「あの、何か理由があるんですか?」


容姿は冷淡そのものだが話すと意外に気さくであまり緊張しなくなった雛菊が箸を置いて問うと、星彩も箸を置いてまたちょいと手の甲に触れた。


「……こうすると…落ち着く?」


「え、あの、はい…落ち着くと思いますけど…」


「母様方の力なのか…俺が触るとみんな落ち着くって言う。不安とか緊張してる人が何故か分かるんだ」


晴明の薬の効果もあったが、星彩が小刻みに手に触れてくる度確かに心が落ち着いた。

驚きすぎて言葉を失っていると、天満は星彩の好物を口の中に入れてやりながら笑った。


「兄弟の中じゃかなり変わり者なんだ。そうやって理由も話さず触れるものだから、女の子たちが勘違いして修羅場になったことも沢山あるとかないとか」


「……めんどくさいから話さないだけ」


「だからそれが駄目だって言ってるんだぞ。ちゃんと僕の話聞いてるの?」


天満はそうやって星彩を叱りつつ、また口の中に好物をねじ込んでやっていて、まるで親鳥が雛鳥に餌を与えているような光景がなんとも微笑ましくてついぷっと笑ってしまった。


「こいつぼーっとしてることが多いからこうやって食べさせないと僕らが食べ尽くしちゃうことも。ほら口開けて」


甲斐甲斐しく世話をする天満と、朔や息吹が甲斐甲斐しく小皿に料理を取り分けて星彩の前に並べる光景――

もう小さくないんだから、と星彩が言っても聞く耳持たずの家族があまりにも面白おかしくて、つわりなど感じる暇もなかった。


「星彩さん、明日の祝言参加してくれますよね?」


「……うん」


にこっと笑った笑顔が神々しくて、中身と外身の差の激しさに萌えて、天満たちと同じように小皿を手に甲斐甲斐しく世話をした。
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