天満つる明けの明星を君に【完】
朔が百鬼夜行に出ると、祝言前夜はそれぞれ静かに迎えようということになって十六夜夫妻は部屋に戻って行った。

星彩にちょいちょい触られて以来体調がすこぶる良くなった雛菊は、晴明の言うように精神的な負荷がかかりすぎて子が流れたのではないかと思うようになっていた。


「星彩さんはよく迷子になるんですか?」


「……うん。でも大抵誰かが迎えに来てくれる」


「えっ」


「星彩には迷子防止のお祖父様特製の札を持たせてるんだ。それがある限りは大丈夫だけど、意外と自力で戻って来るからまだ安心かな。戻って来るまで数日かかる時があるけど」


雪男が庭の一角でござを敷いて月見酒を楽しんでいる所にちゃっかり入り込んでいた星彩と天満と雛菊は、雛菊以外みんなからから笑って思い出話をしているものの、こんな端正な顔で迷子…やはりその差がものすごく、つい何度も訊いてしまっていた。


「あの…騒動になったりしません?女の子にきゃあきゃあ言われたり…」


「……言われるけど…すぐまたどこに居るか分からなくなって…気が付いたら違う場所に居るから…」


――これは本格的な方向音痴だと確信した雛菊は、天満とは正反対の切れ味鋭い美貌を酒の肴にしつつ天満の袖を引っ張った。


「天満さんの弟妹さんたちってみんなこんな感じ?」


「うん、大体ね。あれかな、兄三人がしっかりしてるから、弟や妹たちはのんびり屋が多いんだ」


「待て待て、お前ものんびり屋に入るぞ。朔と輝夜に甲斐甲斐しく世話してもらってたろうが」


「で、今度は僕が星彩を甲斐甲斐しく世話して、星彩が下の弟や妹たちを甲斐甲斐しく…いや、できてるのかなあ…つまりそういう構図なわけです」


なるほど、と妙に納得してしまった。

何より恐らく甲斐甲斐しさにかけては誰にも負けない雪男は、酒を注いだ盃を星彩に持たせてやりながら月を見上げた。


「祝言かあ…」


感慨深く、笑みが滲んだ。
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