天満つる明けの明星を君に【完】
どたばたと廊下を数人が駆け回っている騒々しい足音で目が覚めた天満は、熟睡してしまって朔を出迎えることができず慌てて飛び起きた。


「朔兄っ!お帰りなさい!」


「ああまだ寝ていて良かったのに。お前今日は主役だから頑張れ」


居間に飛び込むと朔はすでに風呂にも入っていて、のんびり茶を飲んでいた。

騒々しく駆け回っていたのは雪男や山姫や息吹で、祝言を挙げる大広間の飾りつけに追われていた。


「天ちゃんおはよ!あっ、なんにも手伝わなくていいからね!雛ちゃんももうちょっと寝かせておいてあげてねっ」


「え、はい」


そう言いながらも息吹がにこにこしながら天満の元へ持って来たのは、紋付き袴衣装で、苦笑いした天満の胸に押し付けてにっこり。


「雛ちゃんの準備は私がするから天ちゃんはこれ着て気を引き締めるんだよ。あ、ご飯食べてから着てね!」


そしてまた息吹がどたばたしながら居なくなると、天満は吹き出すのを必死に堪えている朔を軽く睨んだ。


「朔兄もいつか同じことされるだからね」


「うん、よく覚えておく」


上座には十六夜がどっかり腰かけていたのだが、一切の口出しをしない。

口出ししても言い負けることが分かっているためであり、それでも少しなんだか嬉しそうな顔をしていた。


「父様嬉しそうですね」


「…息子が嫁を貰うんだ。嬉しくないわけがない」


「孫の顔が見れるのももうすぐですよ」


「…朔、お前も早く嫁を…」


「あ、ちょっと用を思い出したので失礼します」


朔がにこにこ笑いながら十六夜から逃げると、天満はため息をつく十六夜にもそっと近づいてにこにこした。


「父様、星彩と僕でお酌しますよ。ほら星彩こっち来て」


縁側でぼんやりしていた星彩を手招きして十六夜を取り囲んだ天満は、昨晩の質問を十六夜にぶつけた。


「父様は男の子と女の子、どちらがいいですか?」
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