天満つる明けの明星を君に【完】
本来一子しか産まれてこない家だったから、次の当主も朔の子であるとあらかた決まっているようなものだった。

だが万が一何かが起きた場合――天満の子にその役目を背負わせることになる。

家業を疎ましく思ってはいないが、重たい宿命であることを理解している十六夜は、天満の問いに目を伏せた。


「…どちらでもいいが、男ならば当主の負担を傍で減らしてやることができるだろう」


「そうか…そうですね、僕もそう思います。あ、雛ちゃんおはよう。よく寝てたね」


寝過ごしてしまった雛菊が恐る恐る居間に入ると、祝言の祭事にやって来ていた晴明が顔色を見て満足げに頷いた。


「いい顔色だねえ、その様子だと大丈夫そうだ」


「はい、頂いたお薬と星彩さんが手をぎゅってしてくれるので…」


「……」


天満の隣に座ると、早速星彩が手をぎゅっと握ってきて見つめてきたため、顔が赤くなるのを感じた雛菊は、薄目でじっとり天満に睨まれて焦って俯いた。


「雛ちゃん…」


「だから!仕方がないの!天満さんの家族の皆さんみんな素敵だから!」


また口走ってしまって朔が吹き出すと、雛菊が大人しい娘だと思い込んでいた十六夜は、息吹に似た印象を抱いてふわっと笑った。


「…お前は母似の娘を選んだようだな」


「え、やっぱりそう思います?僕たちみんな母様大好きだから無意識に選んじゃうのかな。…あっ、父様のことも大好きです。もちろん」


変な告白をされて照れた十六夜がぷいっと顔を背けると、息吹が山姫と共に大量の料理を並べ始めてぱんと手を叩いて注目させた。


「はいみんな!一緒にご飯を食べてその後祝言ですからね!忙しくなるからよろしくねっ」


はーいと皆が声を上げて賑やかな食事が始まった。

小皿に沢山料理を取ってくれる天満と共に笑いながら食事をして、微笑みながら母が遺してくれた白無垢に袖を通した。
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