天満つる明けの明星を君に【完】
朝餉を食べて少し落ち着いてから別の部屋へ移動した雛菊は、そこで息吹と山姫に白無垢を着せてもらい、化粧をほどこしてもらった。

そうしているうちに徐々に緊張が競り上がってきたが――母の白無垢を着た自身の姿を鏡台の前で見た時、こみ上げてくるものがあって目が滲んだ。


「こら、泣いちゃだめだよ。雛ちゃんすっごくきれいで可愛い。お母様はいいものを遺して下さったね」


「はい…ぐす…っ」


「あ、雛ちゃん泣いてる。祝言はこれからだよ?」


ひょっこり顔を出した天満は、真っ白な白無垢と角隠しを被った雛菊を見て一瞬唖然として立ち尽くした。

自分に嫁が来る――分かっていたことなのに実際花嫁姿の雛菊を見ると、予想以上にきれいで可愛らしくて、目を泳がせて咳払いをした。


「あの…すごく可愛いね…」


「え…あ、ありがとう…」


ふたりでもじもじしている姿にきゅんきゅんが止まらない息吹は、十六夜との祝言を思い出して正座をすると吐息をついた。


「如ちゃんは祝言挙げなかったから実感なかったけど、うちの子がこうして祝言を挙げれて本当に嬉しい。天ちゃん、絶対に幸せにしなきゃ駄目だよ?」


「はい、それはもちろん」


「赤ちゃんが先にできちゃったのはもう仕方ないから怒らないけど、本当は順番が違うんだからね?」


「あの…はい…ごめんなさい…」


半妖である身だから、人の摂理も守るべきだ、というのが息吹の持論なため、天満たちもそれに沿って生きてきた。

これからもそれを守るべく気を引き締めていると、雛菊がそっと手を伸ばしてぎゅっと握ってきた。


「天満さんもすごく素敵」


「馬子にも衣裳だよね」


紋付き袴姿の天満はとても凛々しく見えて、雛菊の目尻が下がると母の前で抱きしめそうになって慌てて少し身を引いた。


「じゃあまた後で。母様、よろしくお願いします」


「うん」


胸を張りたい気分だった。

とても誇らしくて、やっと一人前の男になれることが嬉しかった。
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