天満つる明けの明星を君に【完】
祝言が始まり、晴明が祝詞を上げた。

妖が存在するからには神仏も存在する――それを否定はしないけれど、信仰こそしない。

だが晴明が神仏と縁を結び、晴明が信仰するからにはそれに沿いはする。

晴明が祭事を行うこと自体反対ではなく、祓詞や祝詞は半分人である天満にとっては神聖な儀式だった。

妖が穢れのある存在だとは思っていない。

良心のある者の方が多く、住み分けのできない者が人を襲い、食い、退治される。

雛菊も人を食ったことはなく、また食おうとはこれっぽっちも思っていないだろう。

父が人の妻を迎えたことで、もう二度とこの家系は人を食うことはない。


「ねえ天満さん…大事な儀式だから手を離した方が…」


「いいや、このままでいいよ。ほら怒られるから前を向いて」


途中晴明がこほんと咳払いをして唇を尖らせたため、舌を出して前を向いたふたりはしっかり手を握ったまま離さず、後ろに控えていた息吹たちはそれを微笑ましく思いながらずっとにこにこしていた。


「さあ、三献…つまり三々九度の儀をすれば終わりだよ。これでそなたらは正式な夫婦となる」


すでに戸籍を記す紙にはふたりで名を連ねて血判を押してあり、もう嬉しくて仕方がない天満は盃になみなみと酒を注いで慌てさせた。


「ちょっと天満さん、注ぎすぎっ」


「景気よくぐいっといこうよ!僕にもいっぱい注いでね」


「神聖な儀式なのだが…まあ良いだろう、そなたたちらしくて微笑ましい限りだよ」


晴明が半分呆れながら笑うと、ふたりは三杯の酒を豪快に飲み干してまたしっかり手を取り合った。


「天満さん!これで私たち夫婦です!」


「うん!これで夫婦だ!僕にお嫁さんが来た!ありがとう!」


我が子の祝言はとても明るく微笑ましく、幸せに満ち溢れていた。

息吹は感極まって泣きそうになり、十六夜に肩を抱かれて息子の門出を見守った。
< 230 / 292 >

この作品をシェア

pagetop