天満つる明けの明星を君に【完】
祝言を終えると、天満の妻としての自覚を持たなければと気が引き締まった。

だが当の天満はのほほんとしたもので、終わるとすぐ紋付き袴を脱いで雛菊を居間の座椅子に呼び寄せた。


「疲れたでしょ、早く座って座って」


「終わった…!私妖だけど、なんか神聖な気分になったかも」


「多分僕ら兄弟はみんなお祖父様に祝言をお願いするんじゃないかな。父様はなんだかんだいいつつお祖父様と仲良しだからね」


――晴明は幼くして父母を失い、十六夜が父代わりとなって育てた経緯がある。

ふたりとも会えば憎まれ口を叩いていがみ合っていたが、晴明は息吹の義父であり、これで完全に切っても切れない縁が結ばれて、今も縁側で何やら口論していた。


「私も晴明様と仲良くなれるかな?」


「なれるよ、お祖父様は気さくだししょっちゅう出入りしてるから。それより雛ちゃん、体調どう?星彩を呼ぶ?」


「ううん大丈夫。天満さん、悪阻が収まるまでここに居てもいいの?」


雛菊がそれを望んでいるような顔で訊いてきたため、天満はすぐ頷いて重たい打ち掛けを脱がしてやった。


「それはもちろん。母様たちにとって初孫だし、出産までこっちに居てほしいって言いかねないけど」


今の大きな食卓には乗り切らないほどの量の料理が並べてあり、そのどれもが美味しそうでわくわくしながら見つつ、天満の腕に抱き着いた。


「私もそうしたいかも。でも宿屋のことも気になるから、様子を見に行ってもいい?」


いいよ、と返事をした天満は、祝福の言葉を述べに次々やってくる面々を笑顔で出迎えながらこの時は知る由もなかった。


そこに、悲劇があることを。
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