天満つる明けの明星を君に【完】
屋敷の守りは固い。

人と妖の懸け橋を担う鬼頭の当主が倒れてしまえば、再び双方がいがみ合って争い合う世界になってしまうかもしれないからだ。

よって結界も強ければ朔を守る者、そして朔自身も己を驕ったりすることはない。

鍛錬を積み重ね、百鬼夜行を日々重ね、初代が願った世界を保つことに重きを置いてきた。

――だからこそ、この屋敷に居れば何ら不安はない。

例え駿河が生きていてここへやって来たとしても、きっと駿河は瞬殺されてしまうだろう。


「雪男さんってどの位強いですか?」


「俺?そうだなあ、天満の何十倍位は」


「え!?そ、そんなに!?」


「主さまの傍にはできる奴が居ないといけないからな。あ、ここに長く滞在するにあたって注意事項があるから後で説明するぞ」


晴明の薬を飲んだ後その説明とやらを受けた雛菊は、とりあえず地下に下りなければいいということだけ覚えていればいいと言われて庭で真剣を手にやり合っている朔と天満を縁側で見ていた。


「知らないことが沢山あるみたいだけど、ちょっとずつ覚えていけばいいかな」


ふと隣に誰かの気配を感じて横を見ると、いつの間にそこに座っていたのか星彩が居た。

全く気配を感じさせないためいつも空気のような存在に成り果てているのだが――一度視界に入るとその冷淡な美貌に見惚れてしまい、目が離せなくなった。


「星彩さんは迷子でここに来たんですよね?じゃあ戻るんですか?」


「……」


じいっと見つめられてあたふたしていると、星彩が何かを確かめるようにしてぎゅっと手を握ってきた。


「あ、あの…?」


「……もうちょっと居る」


「そうですか、天満さんが喜びます。私とも沢山お話して下さいね」


「……うん」


体調が良いとはいえ、心配性の天満に窘められて床で横になることの多い雛菊は、天満の家族と会話を交わすことを何より楽しみにしていた。


「あなたはみんなに囲まれて、きっととっても幸せになれるよ」


腹を撫でながら、我が子に言い聞かせて笑った。
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