天満つる明けの明星を君に【完】
雛菊の悪阻が治まった頃、父親になるという自覚が強く芽生えた天満は朔と共に日高地方の大討伐を手伝っていた。

幽玄町のある都から離れた地には度々大きな反抗勢力が立ち上がることが多く、北や南は最も注意すべき地であることは承知だが、今は特に北を憂慮すべきだった。


「今回は人に仇為す連中を軒並み潰していく。もしかしたら駿河と共に行動していた連中がまだ居るかもしれないし、こちらが大勢で行動していれば嫌でも連中の目につくだろう。あっちから出て来てくれることを願おう」


――実際、百鬼夜行の頭である朔が出向けば向かって来る連中は多い。

先代以前の時代とは違い朔には弟妹が居るのだが、頭を潰せば組織が瓦解する例は多く、それを狙っての行動だろうが愚かだと言わざるを得ない。

何故ならば、兄弟の結束の強さを連中は知らないからだ。


「雪男に最北端を探らせていたみたいだけど、どうなりました?」


「元々その地になかった隠れ里のようなものが数多く点在していたらしいが、駿河は居なかった。今回は駿河をあぶり出す作戦でもあるし、反抗勢力を一掃する目的もある。気を引き締めろ」


夏が近づいて来たとは言え日高地方はまだ涼しく、上空で強い風に髪をなぶられながら、返り血で手が滑らないよう獣の革をなめした手袋を手にはめた。


「一掃します。駿河をこの手にかけるまでは、絶対に諦めない」


「同時にお前がわざと取り逃がした妖の捜索も続けている。お前はこの地方じゃ‟夜叉”として有名だからな、俺よりお前に向かって行く者が多いかもしれないぞ」


「慈悲はかけません。朔兄、行きましょう」


天満の目の中にたゆたう星のような妖気の光が瞬いた。

朔もまた天満と雛菊の平穏を守るべく、天叢雲を握る手に力を込めた。


「よし、行こう」


出て来い、駿河。

お前には絶対に、雛菊は渡さない。
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