天満つる明けの明星を君に【完】
腹が大きくなってきた。

僅かな膨らみだったものがどんどん大きくなり、身体が重たくなるのを感じてあまり動けなくなってきて、夢の中で逢っている娘にもうすぐ出会えるのかと思うと感慨もひとしおで、食事の量も増えた。


「お腹大きくなってきたね。ええと、何ヶ月になったんだっけ」


「七か月だよ。あと三月位で逢えるんだよ。楽しみ?」


「もちろん。どこか痛くない?寝てなくて大丈夫?」


「悪阻もなくなったし身体は重たいけど散歩は毎日していた方がいいって息吹様が仰ってたから動いてた方がいいのかも」


安定期に入ったら流産の心配はほとんどしなくていいと言われて、どれほど安心したか。

――夢の中で逢っている娘の姿もどんどん大きくなり、姿は十歳程の本当に可愛らしい女の子になっていた。

相変わらず独特な目の色をしていて無邪気で活発で、傍にぴったりくっついていつもにこにこしているが――喋らない。

それは最初から一貫していたためもうさほど気にはならなくなったが、雛菊はひとりぺらぺらと天満のことを語り続けた。


「あなたのお父様は本当に素敵な方で、優しくて強くてきれいだけど、ちょっと人見知りさんなんだよ。でもあなたは誰とでも仲良くなれそうだね。お父様の夢の中には出てあげないの?」


言葉は分かっているのか、娘はふるふると首を振ってまた腕に抱き着いてきた。

母性とはこれなのか――愛情が溢れ出てさらさらの黒髪を撫でてやると、娘が顔を上げた。


その顔が…表情がどこか少し翳りを帯びていて、雛菊は首を傾げて頬に触れた。


「どうしたの?何か言いたいことでもある?」


「…」


相変わらず言葉はなかったが、今度は膝に抱き着いてきて身体を丸めて目を閉じた。


「もうすぐ会えるからね…」


もうすぐ――
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