天満つる明けの明星を君に【完】
眠たそうな顔をしているが必ず朝餉は皆で食べると決めている十六夜と共に、雛菊親子もご相伴に与った。

別れの時が近付く度に天満はそわそわしていて、とにかく雛菊のことが気にかかっているのが丸わかりな弟の肘を小突いた朔は、ひそりと声をかけた。


「天満、後でふたりで庭を散歩して来い」


「え…なんでですか?」


「お前が雛ちゃんを気に入っていると分かればもしかしたら母様たちはお前と雛ちゃんを夫婦にさせたいって思うかも」


天満は一瞬きょとんとして、その後猛烈に顔を真っ赤にさせて箸を置いた。


「意味が分かりません!どうしたらそんな発想に…」


「だってお前が唯一まともに話せる女の子だぞ。お前だって気に入ってるんだろう?だったら…」


「そんな…たった一日そこらで決められるわけありません!確かに雛ちゃんとは普通に話せるけど…でも…」


「いいから帰る前に一度庭を散歩して来い。分かったな?」


弟は兄には逆らえない。

天満は渋々頷くと、息吹と仲良くすまし汁を飲んでいる雛菊を盗み見てため息をついた。

…確かに雛菊とは普通に話せるし可愛いと思うし…もうちょっと一緒に居てほしいと思っているが…

それ以上の特別な感情を抱いているかと言われれば分からないし、第一雛菊にどう思われているか――


「ご馳走様でした」


雛菊が息吹に倣って両手を合わせると、それまでいじいじ悩んでいた天満はさっと立ち上がって食卓を回り込んで雛菊に手を差し伸べた。


「ちょっと散歩しませんか?」


――積極的な態度に十六夜と息吹の目が丸くなった。


「はい、私もそう思ってました」


「あ、そこ段差があるから気を付けて下さいね」


ふたり仲睦まじく庭に下りて散歩を始めると、息吹は十六夜の膝を何度も強く叩いてきらきらした目で訴えた。


「ねっ主さま!いいと思わない!?」


「……では親同士で少し話をするとしようか」


一歩、前進。
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