天満つる明けの明星を君に【完】
天満が朔の傍で生き生きと過ごしていることは雛菊にとっても喜びのひとつだった。

やはり鬼陸奥に居る時よりも表情が明るいし、よく話す。

身体の切れも良くなって、やはりこっちで暮らすのが最適だと感じた雛菊は、縁側に天満を呼び寄せて手を握った。


「天満さん、一度鬼陸奥に戻ってもいい?」


「え?いいけど…どうして?」


「宿屋を正式に番頭に譲ろうと思うの。証書とかも渡さないといけないし、主さまから借りたお金ももう完済してるから思い残すことはもう何もないって言うか…」


「そっか、新たな門出をっていうことで宿屋の再開を最初は目指してたけど、その新たな門出ってやつは僕と始めちゃったからね。宿屋の譲渡の件は僕も賛成だから、じゃあ一度戻ろう」


胎内で時々子が動くようになり、話している間にもぴくりと動いて思わず笑い声が漏れた。


「ふふ」


「雛ちゃん?」


「天満さん、触ってみて。今すっごく動いてるから」


手を腹に導かれて触れてみると、掌に確かに胎動を感じて感動のあまり大きな声が出た。


「わっ!動いてる!」


「生きてるんだもの、動くに決まってるよ。お父様に会えて嬉しいんだよねー」


「お…お父様…えへへ…」


その響きに照れて笑っていると、今度は腹の形が変わるほど大きくぼこんと動いて今度はふたりで声を上げた。


「わあっ!」


きゃっきゃと声を上げて笑い、朔の許しを得るために雛菊の頭を一度撫でて腰を上げた。


「善は急げだから明日には発とう。朔兄に朧車を貸してもらえるように頼んで来るね」


「行ってらっしゃい。私からも後でお願いしておくね」


天満が去った後、また腹を撫でて呼びかけた。


「一緒にお母様の故郷に帰ろうね」


帰って色々整理をして、またこちらへ戻って来て腰を据えて暮らそう。

そうできるものと、思っていた。
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