天満つる明けの明星を君に【完】
朔に許しを得た翌日早朝、天満は身重の雛菊を慮って抱き上げると、朧車に乗せて見送りに出て来てくれた朔に頭を下げた。


「じゃあ朔兄、数日滞在する予定だから、帰る時文を送りますね」


「ん、気を付けろよ」


はい、と返事をして御簾を下げるとすぐさま朧車は上空を駆けて全く揺れのない内部でふたりは身を寄せ合った。


「一応数日って言ったけど早く帰りたくなったら言ってね。番頭に証書を渡すだけでしょ?」


「そうだけど、幽玄町のお屋敷でお世話になるんだから、必要なものを持って行きたいなって思ったり、実家のお掃除をしたいなって思ったり…」


「掃除は僕がするよ。幽玄町で大体のものは手に入るけど、お母さんから譲り受けたものとかあるのなら帰る時に一緒に持って行こう」


上空の風はまだ冷たくて、何重にも羽織を着せ込んだ天満は外が見たいと言った雛菊のために御簾を上げてしっかり腰を支えて落ちないようにした。


まだまだ新婚気分で甘えたり甘えられたりするのが楽しくて、消し飛ぶように変わってゆく景色を見ながらこれからどうしていこうか話し合った。


「赤ちゃんが産まれたら僕も襁褓を替えたり抱っこして散歩に連れて行ったりしたいから、実はこっそり練習してたんだ。三人で遠出したりしようね」


「え、そんな練習してたの?」


「母様が練習用の人形を持ってたから、それを使って雛ちゃんが寝てる時練習してたんだよ。きっと産まれたらびっくりするから」


常日頃、その胎動を感じていたくて雛菊の腹に手を添える毎日を過ごしていた。

それまでは動かなかったのに、天満が手を添えると途端に動くと雛菊に言われた時はとても嬉しくて、ずっと触っていることが多くなった。


「あ、雛ちゃん、見えてき…ふふ」


鬼陸奥に着いたが後ろ抱っこしているうちに眠ってしまっていた雛菊の頬をぷにっと突いた天満は、鬼陸奥の家に着くと起こさないようゆっくり抱き上げて下りて家に入った。
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