天満つる明けの明星を君に【完】
雛菊が起きるとそこは天満と暮らしていた家で、周りには火鉢が置かれてあった。

ああ鬼陸奥に着いたのかと目を擦りながら居間へ行くと、こちらはもう少し冷えてきていて掘り炬燵に入っている天満と目が合った。


「よく寝てたね。今日は疲れただろうから、宿屋に顔を出すのは明日にしてゆっくりしようか」


「うん。なんかお腹がちょっと変だからそうしたいな」


「え…!?お腹が変ってどういうこと!?」


――変というか、いつもは元気に胎内で動いているのにさっきから動かない。

腹に手を添えてじっとしていると僅かに感じる位で、とりあえず安静にしている方がいいと判断した雛菊は、掘り炬燵に入って首を振った。


「痛いとかそういうのじゃないんだけど…こっち寒いからちょっとびっくりしちゃったのかな」


「そっか、じゃあもうちょっと部屋を暖かくしよう。あとご飯は僕が作るよ。保存食位しかないけどちょっと見繕ってくるから家から出ないでね」


外の氷室に出て行った天満を見送ると、雛菊はせり出した腹を見下ろして優しく撫でた。


「どうしたの?寒いのはあんまり好きじゃないのかな」


やはりしんとしたままで、首を傾げながらもずっと話しかけているうちに天満が食材を抱えて戻って来た。


「大丈夫?横になってた方がいいんじゃ…」


「ううん、大丈夫。それよりやらなきゃいけないことが沢山あるから整理しよ」


「そうだね」


それから天満と順番立ててこれから何をやるべきかを話し合った。

時折強い風が吹いて雨戸をがたがた揺らして外に目を遣ると、雲がすごい速さで流れていくのが見えた。


「天気が悪くなりそう」


「こっちはこの季節あまり天気が良くないから。天満さん、早く離れよ」


そうだね、と返事をした天満は、雛菊の隣に移動すると、ずっと腹を見下ろしている雛菊の不安を少しでも和らげてあげられるよう肩を抱いて腹に手を添えた。
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