天満つる明けの明星を君に【完】
その夜、もうすっかり年頃になった娘と夢の中で再会した。

長い黒髪がとても美しく、緋色の羽織を纏った姿はとてもきれいでいて可愛らしく、ただいつもと違うのは――娘がとても遠くに座っていて、歩いても歩いても距離が縮まらないことだ。

光射す日なたで一心に光を受けている姿は凛としていて神々しく、雛菊は手を差し伸べながらなんとか距離を縮めようと歩き続けた。


「ねえ、こっちに来て。お母様とお話をしましょう?」


「……」


こちらを向いたその顔は困ったように目尻が下がり、うなだれて目を伏せていた。

何かとても悲しそうで、胸が詰まった雛菊は声の限りに叫んだ。


「お願い、こっちに来て!お願い…いつも通り傍に居てくれるだけでいいから…」


「……さい…」


「え?今…喋った…?」


――赤子の姿から年頃の姿になった娘は、今まで一貫して一言も話さなかった。

なのに何か小さな声で可愛らしい声で何か呟いたため、雛菊は思わず足を止めて娘をじっと見つめた。


「……ごめん…なさい…」


「え…何を謝ってるの?あなたは何も悪くないんだよ?私が…お母様が何かしたのならごめんね、反省するから教えて?」


「………」


それ以上話さず、相変わらず距離も縮まらず、焦燥感に駆られた雛菊は、なおいっそう声を張り上げた。


「もうすぐ会えるから!無事に産まれておいで!」


娘が儚いながらもにこ、と微笑んだ。

あまりにも繊細でいて消え入りそうな色気を纏った微笑に見惚れていると、いつものように娘の身体は金色の流砂のようにさらさら崩れていって、消えてしまった。


「私の赤ちゃん…」


ちゃんと産まれておいで。

私と天満さんが、あなたが無事に産まれてくるのを楽しみにしているからね。
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