天満つる明けの明星を君に【完】
明け方目覚めた雛菊は、ぼんやりしながら雨戸と障子を開けて外の澄んだ空気を吸って吐いた。

息はもう若干白く、東の空にひと際輝いている金色の星を見つけて飽きもせず見ていると、起きて来た天満が雛菊の肩に羽織をかけてやって隣に座った。


「おはよう雛ちゃん。体調はどう?」


「大丈夫。あと夢を見たよ。でもなんかちょっといつもと違って…」


「そっか、少し心配だから、近所に住んでる産婆さんに話をして来てもらおうと思ってるんだけど、どう?」


「うん、お願いね」


「よし、じゃあご飯食べて洗濯して産婆さんに話をしてから宿屋に行こう。あ、雛ちゃんはじっとしてるんだよ」


相変わらず心配性の天満にくすくす笑っていると、てきぱき動き出した姿を見つつこれからの未来に思いを馳せた。

天満はきっとものすごく驚くだろう。

自分たちの娘の可愛らしさ…

まさに‟魔に魅入られる”という表現がぴったりのあの独特の目の色で見つめられて、どきどきするかもしれない。

娘に言い寄る男はそれこそ薙ぎ倒して‟僕の目の黒いうちは…”なんて言い出すかもしれない。


「ふふふ」


「…あ、なんかやな笑い方してる」


「違うよ、ちょっと想像してたら面白くて」


「思い出し笑いなんて雛ちゃんはやらしいなあ」


「天満さんこそ純情そうに見えて実際は違…」


「ちょっとちょっと!僕は今でも純情ですよ!?」


ふたりで吹き出して笑っていると、障子を閉めて掘り炬燵の中に入れられた雛菊は、ぬくぬくしながらずっと腹を撫でていた。


「あっちで産みたいからまだ出て来ないでね」


まだ産み月ではない。

何度もそう繰り返して諭しながら、あの夢の真意を量り兼ねていた。
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