天満つる明けの明星を君に【完】
散歩がてらゆっくり歩いて宿屋に向かうと、皆が総出で出迎えてくれて、胸がいっぱいになった。

特にそろそろ子が産まれるとあって代わる代わる大きくなった腹に触れては産まれてくる子は男なのか女なのかと予想をして喜んでくれる姿は天満と雛菊を幸せな気分にしてくれた。


「で、番頭…これが証書だから、今日から正式に君の宿屋になる。後は頼んだよ」


「それは困ります!私はいつまでも雇われ番頭で天満様と雛菊様の元で働きたく…」


「僕ら頻繁にこっちには戻って来れないと思うし、君に任せるのが最善だと思ったんだ。だからできれば快く引き受けてほしい」


拒む番頭を説得すること小一時間。

嫌だ嫌だと首を振って頑なに拒まれたものの、譲ると決めた天満と雛菊の決意もまた固い。

どちらが先に折れるか、半ば勝負になってしまい――結局折れたのは、番頭だった。


「雛菊様はご出産された後子育てに邁進しなければいけませんし…分かりました。お引き受けいたします」


「!それは良かった!」


「ですが、権利は私のものであってもここの収益には一切手出しいたしません。おふたりにも名を連ねて頂いて、売り上げの一部を受け取って下さい。そして時々でいいですから顔を出して頂ければ」


「君は頭が固いなあ…まあそこが良い所でもあるんだけど。その熱意に負けたよ。それで君が引き受けてくれるなら籍を置いておこう」


――少し離れている間に番頭を筆頭に皆で苦心したのか、店内にはあらゆる工夫が施されてあり、雛菊はそれをとても喜んであちこち見て回っていた。


「ちょっと雛ちゃん、あんまり動き回ると…」


「だってすごく素敵になってるから。私たち明日戻るけど、また顔を出しに来るね」


またもや皆で見送ってもらうと、天満と雛菊は手を繋いで少し繁華街を見て回りながら笑い合った。


「今度こっちに来る時はけちつけて困らせよう」


「うんうん、やなお客さんになって困らせちゃおう」


笑い声を上げて家路についた。
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