天満つる明けの明星を君に【完】
途中、近所に住んでいる産婆の家に寄って後で来て欲しいと話した後、雛菊の実家の掃除をしなければと思い立った天満は、掘り炬燵に入っていた雛菊の頭を立ったまま撫でた。


「もう用事は済んだから、雛ちゃんの実家を掃除して今夜はゆっくりして、明日幽玄町に戻ろう」


「うん。掃除に行くの?私も一緒に…」


「もう寒くなってきたから駄目だよ。夕方には戻って来るから家でじっとしているように」


腹の調子がまだいまいちだった雛菊は、素直に従っておこうと頷いてひとつお願いをした。


「もしよかったら、奥にある泉でお水を少し汲んできてくれない?あそこのお水、滋養に良いらしいの」


「うん分かった」


なるべく早く戻るから、と優しく声をかけた天満が家を出ると、雛菊は蜜柑を食べながら外に目を遣った。

風が少し出てきて洗濯物がはためいていた。

思えばこちらは天気が悪いことが多く、幽玄町の穏やかな四季がすでに懐かしく、自分の場所はもうすでに幽玄町に在るのだなと思うと不思議で、天満との出会いに改めて深く感謝をしていた。


「今までの私、つらくて悲しいことばかりだったけど…でも今は幸せすぎて、そんなこと忘れちゃうほど幸せ」


いつか天満と話した。

また転生して巡り合いたい、と。

そう話したけれど、こんな巡り合いはもう二度とないだろうし、どちらかが転生して出会うまで悠久の時を待たなければならないかもしれない。

それはとても長くてつらくて、心が折れるかもしれない。


「こうして出会えて幸せになれたから、もういいの」


もう、再び出会えなくてもいい。

私は今、こんなにも満たされているのだから。
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