天満つる明けの明星を君に【完】
最終章
うとうと微睡んでいると、また夢の中で娘と逢って近付こうとした。
だがまだ距離は縮まらず、雛菊はあちらから来てもらえるよう必死に手招きをした。
「こっちにおいで!」
「……さい」
「え?」
「ごめんなさい…。ごめん…なさい…」
しきりに謝っては悲しそうな顔をして手を振る娘に焦りを覚えた雛菊が必死に駆けようとした時――はっと目が覚めて、額を押さえながら辺りを見回した。
「また夢…」
どの位時間が経っていたのだろうか?
外を見ると、天満が干してくれた洗濯物が強風に煽られていたため、取り込まなくてはと寝ぼけながら縁側から庭に下りて、腹を撫でつつ洗濯物を抱えて息を切らしていた。
「背伸びするのがこんなに難しいだなんて…」
少し運動をしなくてはと毎日散歩はしていたのだが、ほとんどの家事を天満に任せてしまっているため、出産したらきりきり働いて良い妻にならなくてはと張り切った。
あの夢は何だったのだろうか、と考えた。
手を振っていた娘はまるで今生でもう会えないような悲壮感を漂わせていて、不安がよぎったものの、きっと出会えると信じていた。
信じていたのに――
「雛菊…かい?」
「…っ!?」
その滑りのある低い声――
名を呼ばれただけで、誰だかすぐに分かった。
背後から聞こえたその声に全身が震えて、足ががくがくして振り返ることすらままならなかった。
そんな馬鹿な――
そんな馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な――!
「雛菊…ああ…ようやく会えたね…」
「…っ、駿河…さん……」
振り返れない。
怖くて怖くて仕方がなくて、心の中で天満の名を呼び続けた。
だがまだ距離は縮まらず、雛菊はあちらから来てもらえるよう必死に手招きをした。
「こっちにおいで!」
「……さい」
「え?」
「ごめんなさい…。ごめん…なさい…」
しきりに謝っては悲しそうな顔をして手を振る娘に焦りを覚えた雛菊が必死に駆けようとした時――はっと目が覚めて、額を押さえながら辺りを見回した。
「また夢…」
どの位時間が経っていたのだろうか?
外を見ると、天満が干してくれた洗濯物が強風に煽られていたため、取り込まなくてはと寝ぼけながら縁側から庭に下りて、腹を撫でつつ洗濯物を抱えて息を切らしていた。
「背伸びするのがこんなに難しいだなんて…」
少し運動をしなくてはと毎日散歩はしていたのだが、ほとんどの家事を天満に任せてしまっているため、出産したらきりきり働いて良い妻にならなくてはと張り切った。
あの夢は何だったのだろうか、と考えた。
手を振っていた娘はまるで今生でもう会えないような悲壮感を漂わせていて、不安がよぎったものの、きっと出会えると信じていた。
信じていたのに――
「雛菊…かい?」
「…っ!?」
その滑りのある低い声――
名を呼ばれただけで、誰だかすぐに分かった。
背後から聞こえたその声に全身が震えて、足ががくがくして振り返ることすらままならなかった。
そんな馬鹿な――
そんな馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な――!
「雛菊…ああ…ようやく会えたね…」
「…っ、駿河…さん……」
振り返れない。
怖くて怖くて仕方がなくて、心の中で天満の名を呼び続けた。