天満つる明けの明星を君に【完】
雛菊と共に庭を散歩しつつ、どんな会話をすればいいか分からずもじもじしていると、雛菊は池の前で立ち止まって天満に笑いかけた。


「一日とても楽しかったです。ありがとうございました」


「あ、あの…」


「はい?」


雛菊にまっすぐに見つめられた天満は、おずおずと手を伸ばして雛菊の小指をきゅっと握った。

…こうして躊躇はすれど触れることができる女子は、雛菊だけだ。

どういう理由でそうなったのか分からないけれど、とにかく特別な女の子には違いなく、ふたりで大きな庭石に腰かけて上目遣いに雛菊を見つめた。


「また…遊びに来てもらえますか?」


「え…いいんですか?」


「はい。僕、また雛ちゃんと遊びたいです。もし雛ちゃんもそう思ってくれてるなら父様にお願いしてまた近いうち遊びに来てもらえるように…」


「また来たいです。わあ…良かった、同じ気持ちだったんですね。嬉しい」


心底嬉しそうに笑った雛菊を見て、身体の底から何かが沸き上がって来るのを感じた。

そこで天満は――


本当に無意識に、繋いでいた雛菊の手を口元に引き寄せると、小指をがりっと甘噛みした。


それは鬼族の愛情表現で、誰に教わるでもなく天満は自然に雛菊に愛情表現を見せて、時が止まった。


「て…天満様…」


「!あ、あの、僕…ごめんなさい!」


天満はすぐ謝ったが、雛は甘噛みされた小指をそっともう片方の手で包み込むと、ぽっと頬を赤くした。


「ううん…嬉しい…です…」


「雛ちゃん…」


――ふたりともまだ幼い。

朔ならともかく天満はまだ本当に幼く、十六夜たちの話し合いの下、もう少し大きくなってから話を進めようということになった。

ふたりが離れてなお互いを思い遣るのならば、是非夫婦に。

許嫁の約束ではなかったが、限りなくそれに近く、ふたりの仲睦まじい姿を見た双方の親は目を細めて見ていた。
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