天満つる明けの明星を君に【完】
帰り際、雛菊は何度も振り返っては手を振った。

天満もその度に手を振り返して、雛菊の足取りがとても重たくて別れを惜しんでくれているのが嬉しかった。


「母様、次はいつ遊びに来てくれるでしょうか」


「ふふ、そうだね、父様に催促してみようね」


しょぼんとした天満が俯くと、朔はその手を引っ張って庭に連れ出して木刀を投げてよこした。


「朔兄?」


「天満、知ってるか?女の子は…強い男が好きだ」


「!そうなんですか?」


「妖の女の子だけじゃない。人の女の子だって強い男が好きなんだ。だからお前が強くなれば、次に雛ちゃんが会いに来た時好きになってくれるかも」


それを聞いた天満は目を泳がせながらもう一本木刀を手に取って二本構えると、とぼけて見せた。


「別に…好かれようなんて思ってませんけど」


「ふうん、じゃあ雛ちゃんは俺が貰おうかな」


「駄目!です!」


思いの外強い口調になってしまって慌てまくる天満があまりにも面白すぎて爆笑してしまった朔は、木刀を構えてくいくいと手招きした。


「理由は色々あるだろうけど、俺もお前も強くならなくちゃいけない。目下の目標は…あれだ」


――朔があれと言って指した先には、庭を掃いていた雪男が。

目が合うと、ふたりして木刀を構えてにじり寄る幼子たちに嫌味たっぷりの笑みを浮かべて箒をびゅっと振った。


「小僧どもめ。その目付き、主さまそっくりだな!やな感じ!」


「今日こそお前を倒してやる。天満、行くぞ」


「はいっ!」


掛け声と共に雪男に襲い掛かったが――結果は完敗。

それでも天満は朔の‟強い男が好き”という言葉を胸に、何度も雪男に挑み続けた。
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