天満つる明けの明星を君に【完】
最初のうちは、雛菊はどうしているだろうかと考えることが多かった。

だが年月を重ねるにつれて、手足が長くなって背が伸びると、格段に刀の腕が上がって雪男を苦戦させることもできるようになっていた。

朔はもっともっと刀の腕も上達して、顔つきもどんどん今以上に美しくなっていって、弟の自分でさえも見惚れるほどのものになっていた。


そうなると――自身の腕にも自信がついてきて、力を求めるようになった。

そうしているうちに雛菊のこともどんどん思い出になっていって、思い出すこともなくなっていた。


「朔兄、本当に当主になっちゃうんですね。遠い方になっちゃうみたいで悲しいです」


「遠くなんかない。そう感じないでほしい。お前にはずっと支えていてほしいんだ」


――雛菊と別れて数十年。

妖の時間の流れはとても緩やかで、数十年など一瞬の出来事だ。

朔はその間に雪男から刀術を習う以外に体術も習い、当主になるべく盤石の態勢となっていた。

天満は日々朔と鍛錬に励んでいたが、どうやら自身の妖力が強すぎるため、刀は一度使うとすぐ駄目になってしまって、それが悩みの種だった。

朔には父から受け継いだ天叢雲があるためそんな悩みはなかったが――


「お前は妖力が強すぎるから、お前に見合うものを用意しないといけないな」


朔と天満は双方鬼族の数え年で成人を迎える年頃になり、天満は月夜を見ながら朔と晩酌をしていて、頷いた。


「僕専用の刀を鍛えてもらえるかなあ」


「んん、俺から父様に相談してみる。しかし天満、お前もう雪男から一本取れるんじゃないか?」


「僕は二刀流なのでその分手数が多いですからね。朔兄はもう一本取れるんでしょ?」


「そうだな、この前参ったと言わせた。あいつは俺が当主になった時側近にするんだ。小さい頃から決めてた」


「朔兄は小さい頃から雪男が大好きでしたもんね。…あ、そうだ、僕、朔兄が当主になった時ひとつ提案があるんでした」


「なんだ?」


天満は朔の盃に酒を注ぎながら首を振った。


「まだ内緒です」


ずっと考えていたことがあった。

朔が当主になったら、自分の身の振り方話さなければ、と思っていた。
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