天満つる明けの明星を君に【完】
「天ちゃん、もうやだあ…手が痛いよう…」


「ああ怪我しちゃったんだね。ほら、薬塗ってあげるからおいで」


成長した暁が木刀を握れる歳になった頃、天満は刀術を毎日のように教えて鍛錬に励んでいた。

女の子には酷なことだったが、暁は当主になるのだから必ず通らなければならない道だった。


「ねえ天ちゃん…どうしてこんな痛いことをしなきゃいけないの?どうして?」


黒と赤に刻々と変化する美しい目を涙に濡らして詰ってきた暁の腕についた擦り傷に縁側で塗り薬を塗ってやった天満は、それには答えず暁にとって一番効果的な切り返しを口にした。


「じゃあやめてもいいよ」


「え…いいの…?」


「いいよ。その代わり君の小さな弟が同じことをするわけだけど」


「!駄目!やだやだやだ、それは、やなの!」


「そう?じゃあ君が頑張る?」


「うん、私が頑張るからいいの。天ちゃん、お願いします!」


再び木刀を構えた暁は両利きであり、もう一本木刀を投げて寄越した天満は、縁側の柱に立てかけてある妙法と揚羽を顎で指した。


「君が頑張って当主として起った時にあれをあげる」


「本当!?」


「でも主として認められるためにはそれなりのものを求められるからね。もっと頑張らないと無理だよ?」


「頑張る!天ちゃんの刀!欲しい!」


ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ暁に目を細めて笑った天満は、それ以降さらに真剣に鍛錬に励むようになった暁を持てる全てのものを賭して教え込んだ。


そして寝る時はやはり、自分か朔の元か――どうも交互に選んでいるらしく、寝る時はいつも抱き枕にされて身動きできず。


「全く…世話のかかる子なんだから」


そう言いつつも暁の成長を傍で見守るのはとても楽しくて、その日もがんじがらめにされて眠った。
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