天満つる明けの明星を君に【完】
朔の妻であり、暁の母である芙蓉は、黒や赤に変化する世にも珍しい美しい目を持っていた。

それは娘の暁にも遺伝していて親子ふたりで同じ目をしていて、天満はこの目の煌めきが大好きだった。


「天満さん、あやして下さってありがとう。お乳をあげなくちゃ」


「はい。じゃあ僕後ろ向いてますね」


「ふふ、天満さんは暁の父のようなものだから見ていてもいいんですよ?」


「え!?芙蓉さん…実は僕のこと嫌いなんですか?間接的に朔兄に僕を殺させようとしてます?」


この家には数多くいる兄弟のうち、三兄弟が揃っている。

長男の朔に、次男の輝夜(かぐや)に、三男の天満。

朔と輝夜は所帯を構えて同じ屋敷に住み、天満ひとりが独り身のため、少し肩身が狭い時があるが――兄ふたりはこの家から出さないと笑顔で押し切ってきて、押し切られて、皆で住んでいた。


――背中を向けていた天満だったが、暁が喉を鳴らしながら乳を飲んでいる音が聞こえると、怖いもの見たさというか――ほんのちょっとだけと自らに念押ししながら肩越しにちらりと振り返った。


暁は芙蓉の腕に抱かれて安心しきって乳を飲んでいた。

天満はその光景にはにかんで、ぼそりと呟いた。


「…雛(ひな)ちゃんはお乳をあげることができなかったからなあ」


「……え?」


「あ、いえ、なんでもないですよ。じゃあ僕ちょっと寝てきますね。子守は朔兄か雪男(ゆきおとこ)か輝兄でお願いします」


「あの、天満さん」


…まずいことを口走ってしまった。


天満は足早にその場を去り、自室に着くとしっかり障子を閉めて息をついた。


「どうしよう…思い出しちゃったなあ…」


部屋の隅に座って膝を抱えて、亡くした妻子を思った。
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