天満つる明けの明星を君に【完】

新たな当主の誕生

襖を開けると――肉眼で見えるほどの真っ黒な妖気が渦巻いていて、部屋の真ん中にはふたつの刀掛けに二本の太刀が飾られていた。


…自然と喉が鳴った。

今にも刀が自分に向かって飛んできそうな気がして、気を引き締めながら太刀の前に座って声をかけた。


「…僕の声が聞こえるのか?」


『…』


返事はなかったが、突然頭の中に手を突っ込まれたような違和感がして激しい頭痛を覚えた。

父が飲み込まれるなと言ってきた意味が分かり、歯を食いしばりながら二本の太刀を睨みつけて、自らも最大限妖気を発揮して押さえつけようと踏ん張った。


「僕は折れない刀を探している。お前たちが僕を主と認めたなら、その声を聞かせてくれ。僕は屈しない。お前たちは僕に負ける。さあ、来い」


――それからどれだけの時が経ったか分からないほど、対峙し続けた。

少しでも集中が途切れると一気に攻勢を仕掛けてくるため、神経を研ぎ澄ましてずっと睨み続けた。

こんなに強い妖気を発していたなら、もう人には操れない。

朔もこうして天叢雲と対峙したことがあり、その結果屈服させて我がものとしている。

負けず嫌いとしては、ここはもう何が何でも踏ん張るしかない。


『くく…っ、はははは!』


「!?」


『妙(みょうほう)の、笑いすぎだ』


『いやなに揚羽(あげは)の、我らが束でかかっても屈服せぬとは参った参った』


それまで刀の名を知らなかった天満が呆気に取られていると、妙法と揚羽という二本の太刀は妖気を収めて静かに語りかけてきた。


『我らを同時に操ると言うか。できるのか?』


「できるからお前たちの前にこうして居るんだ。僕のものになってくれるな?」


『ははは、そういう台詞は女子に言うものではないのか。まあいい、我が主として認めてやろう。だが何者にも敗けるな。その時は貴様を見放してやる』


「分かった。さあ、早速僕の腰に収まってもらおう。朔兄に手合わせしてもらおう」


童のようにはしゃいで二本の太刀をむんずと掴んで部屋を飛び出した。

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