天満つる明けの明星を君に【完】
朔の部屋へ行こうと廊下を小走りに歩いていると、居間の前で足が止まった。


「あれ…夜…」


昼間に客間に入ったはずなのに、随分長く対峙していたのだなと思うとどっと疲れが出て、居間に入ると二本の刀を放り投げて畳に寝転んだ。


「疲れたな…」


「天ちゃん、おむすびあるよ。食べる?」


待ってくれていたのか母の息吹が縁側で繕い物をしていて、頷いた天満は食卓の上に置かれていたおむすびにぱくりと食いついた。


「天満、大丈夫か?」


続いて朔がひょこっと顔を出すと、天満は足の指でちょいちょいと刀を突いてにっこり。


「大丈夫ですよ、僕を主と認めてくれました」


「言っとくけどこいつら結構喋るからな。ちゃんと言い聞かせておけ」


『おお?あなたは天叢雲殿では?』


『如何にも。そちらは…村正か。ふはは、妖刀と謳われる我らがここに揃うとは珍妙な』


「ほらな、こうして勝手に喋る。おいちょっと黙れ」


天叢雲が朔に叱られて黙ると、天満はふたつ目のおむすびに手を伸ばしてため息をついた。


「少し疲れました。朔兄、明日でいいので手合わせしてもらってもいいですか?」


「うん、いいぞ。それに少しでも掠められただけで大怪我になるらしいからお手柔らかに」


「いやいやちょっと待って下さい。天叢雲の方がよっぽど格上ですよ?僕いつも必死で避けてるんですからね?」


はははと笑いながら、ふと次兄の輝夜のことを思い出した。

家を出てから何度か帰ってきたが、それが夢だったかのようにいつの間にかまた居なくなってしまっていた儚い印象が付きまとう輝夜――


「輝兄にも見てほしいな」


「…またいつか戻って来る。とにかくお前は完璧にそれらを使いこなせるようになれ。俺が当主になるまでに」


「はい」


その日は、近い。
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