天満つる明けの明星を君に【完】
「朔兄…どうしたんですか?大丈夫?」


「…疲れた。天満、一杯飲まないか」


肩を落として縁側に座った朔のために酒を用意した天満は、盃に酒を満たしてやるとそれを一気に呷って飲んだ朔の言葉を待った。


「天満…悪いが教えてやれることはなにもない。全て話してはいけないことが書かれてあった」


「え…そうなんですか?だから当主しか見ちゃいけないのかな」


「そうだと思う。でも…当主になる決意はより固まった。天満…俺たちは…鬼頭家は、未来永劫百鬼夜行を続けなきゃいけない。あれを読んだ当主は皆そう思ったはずだ」


どこか泣きそうな表情をした朔の腕をぎゅっと掴んだ天満は、励ますようにそっと揺さぶって思いの丈を告白した。


「何が書かれてあるのか分かりませんけど、僕たち弟妹たちは家業を…生業を疑ってません。父様はいつも僕たちに言ってましたよね。半妖の身だからこそきっと今以上にできることがあるはずだって。そういうことなんでしょ?」


「そうだな…そうだと思う。天満、初代が朝廷と交わした契約書を父様から譲り受ける時、それだけは見せてやれると思う。それで納得してもらえるか?」


「ふふ、僕は知りたがりの聞きたがりですけど、無理強いはしません。あと、代替わりの日は僕たち弟妹たちが朔兄に内緒で決めたことを言いますね。楽しみにしてて下さい」


うん、と言った朔と朝まで飲み交わした。

こんな日々がずっと続けばいいなと思っていたが、そういうわけにはいかないとも思っていた。


幸い朔はひとりっ子ではないし、両手の指で数えきれないほどの弟妹が居る。

自分たちは朔の負担を減らすために、できることがあるのだ。


「今夜は月がきれいですね」


「ん、月の光が天に満ちていて、お前の名みたいだ」


「それ小さい頃にも言われたことあるなあ」


肩を寄せ合って月夜を見上げた。
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