天満つる明けの明星を君に【完】
天満以下の弟妹たちは割り当てられた地へ行くことに関して不満のひとつも漏らさなかった。

それぞれに天賦の才があり、腕っぷしも雪男にそこそこ鍛えられていたためそこらの者にやられることなど絶対にない。

兄弟の全員で客間に集まって、皆で朔の力になろうと円陣を組んで心をより合わせた。


「先に嫁に行った如月がすでにやってくれているんだが、お前たちにも如月同様各地の情報を集め、困っている者がいたら手を差し伸べて自らの判断で動いてくれ。俺たちの合言葉は?」


「人と妖の懸け橋になる、です」


「そうだ。妖同士の協力も大切だが、俺たちは半妖であり、双方の力となれる。こうして弟妹たちが散らばることなど鬼頭家の歴史上なかったことだから戸惑うこともあるだろうが、必ずまた全員で会えることを願う」


はい、と勇ましい返事をした子らを部屋の後ろの方で見守っていた息吹は、ずっと袖で涙を拭っていた。

自らもまた幽玄町内にある別邸の方へ移り、朔たちとは少し距離を置かなければならない。

代替わりが行われれば今までずっとそうされてきたためだが――それでも寂しいし、悲しい。


「また母様が泣いてるぞ。皆、かかれ」


朔の号令で我が子らに取り囲まれてもみくちゃにされた息吹は、皆が笑顔であることに心から安堵して、自分がこんなに不安であってはならないと気を引き締めた。


「みんな、元気でね?母様に文をちょうだいね?」


「毎日書きます!」


「私も!」


「ふふっ、ありがとう。父様は平気な顔してるけど、ここに来ないのはやっぱり寂しくて仕方ないからだよ。私は大丈夫だから、みんなは父様にお別れしてきてね」


さっと立ち上がった我が子らが雪崩の如く居間の方に向かっていくと、残った朔と天満はずっと腹を抱えて笑っていた。


「さあ天満、俺たちも行こうか」


「はい。ちなみに朔兄、僕のお世話をしてくれる人っていうのはどなたなんですか?」


「…すぐ分かる」


「ふうん?じゃあ行きましょう」


旅立ちの時。

天満が‟夜叉”と呼ばれるようになる物語が始まった。
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