天満つる明けの明星を君に【完】
数時間眠った後ぼんやりしながら目を擦って障子を開けると――いつからそこに居たのか、朔と輝夜がふたりして見上げてきてぱっちり目が開いた。


「え…な…なんですか?」


「元気のない弟を励ましに来たんだ。朧が酒の肴を作ってくれたから今から飲もう」


「えぇ…まだ昼間ですよ?百鬼夜行の前ですよ?酔っ払っちゃいますよ?」


「俺がこれ如きの量で酔っ払うなんてあり得ない。まあ飲め」


…これ如きの量、と言ったが――

朔が部屋の前に持ち込んでいたのは度数の高い一升瓶三本で、ひとり一本の計算になり、独り暮らしが長かったためあまり酒を飲んでいなかった天満は小さく悲鳴を上げた。


「まあ…じゃあ…頂きます」


「俺もまぜろ!」


割って入って来たのは、先代で父である十六夜(いざよい)の頃からの側近である雪男だった。

真っ青な目と真っ青な髪をした超絶色男は、天満の隣にどっかり腰を下ろして妻であり、朔たちの末妹の朧を呼び寄せた。


「わああ…僕の部屋の前が大変なことに」


「正直言って弟妹がこうして揃う機会なんて想像してなかったけど、縁も縁だ。父様も喜んで下さっている」


先々代――つまり祖父の代までは男子ひとりにしか恵まれず、兄弟という言葉に縁がなかったらしい。

兄の朔は時々ぽつぽつと鬼頭家の歴史を教えてくれることがあるが、自分たちは人と妖の間に産まれた半妖であり、きっと鬼頭家はじめてのことだろうと話したら、朔は曖昧に頷いて言葉を濁したことがある。


「そういえば、伊能(いのう)が名簿を作って朝廷に持っていきましたけど、僕が最終確認で良かったんですか?」


「ああ、あの家の者は失敗しないから問題ない。もう随分前からうちに尽くしてくれる一族だから、皆大切にするように」


弟妹揃って大きく頷いた。

‟伊能”とは号であり、その一族の者は百鬼夜行をはじめた初代当主の頃から鬼頭家に尽くしてくれている人の一族で、唯一犯罪を犯さず幽玄町に居を持つ者として許されている。


「朔兄は知ってるんだろうけど、僕は知らないことが沢山あるなあ」


「私は知っていますが、口に出さないだけですよ」


「輝兄は仕方ないですよ、見えちゃうんだから。いいないいなー」


「出た出た天満の知りたがり!」


わあわあと皆が声を上げて盛り上がり、芙蓉や輝夜の妻である柚葉も加わって大宴会となった。

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