天満つる明けの明星を君に【完】
朔と輝夜はほぼ同時期に妻を迎えたため、出産も重なって屋敷は一気に童が増えた。

特に雪男と朧の夫婦は多産で小さいのが庭を駆け回っていたが、天満はそれを鬱陶しいと感じたことはなかった。

むしろ静寂に包まれた暮らしを続けすぎていたため、心地よかった。


「そういえば天満さんは北の方で独り暮らしをされていたんですよね?」


「はい、そうですよ」


「本当に独りで?お掃除とか料理は…」


「そういうの僕ひとりでできるので。むしろ誰かが家に居たら落ち着かないっていうか。ひとり静かに本を読んでいました」


「仙人か!」


雪男の突っ込みに笑いが沸いたが、実際そういう暮らしを送ってきた天満がどんな思いで独りを選んだのか――朔と輝夜、そして冗談に持ち込んだ雪男は知っていた。


芙蓉と柚葉からすれば天満の存在はある意味純粋に愛でていられる偶像のような存在で、朔と輝夜のさらにいいとこ取りの美貌の天満にある意味首ったけ。

色々根掘り葉掘り聞きたがっているのを朔も知っていたが、そこは毎回やんわりと押し止めていた。


「あれ、暁だ」


――遠くから、頬を膨らませながら真っ赤な顔をした暁がはいはいをして這いつくばりながらこちらに向かって前進していた。

朔も芙蓉も居た中暁が選んだのは天満で、膝に上がり込むとすっかり落ち着いて指を吸い始めた。


この娘を見た時――亡くした自分の娘なんじゃないか、と何故か思った。

それからは成長を見届けたくて、朔もその意を汲み取ってくれて、今の自分が在る。


「朔兄、僕は暁の教育係っていう立場なんですけど、そうなると暁も二刀流になっちゃいますよ?」


「強くありさえすればいい。あとお前が傍に居れば妙な虫が寄り付かないだろうから、頼んだぞ」


「虫除け扱い!いいですよそれでも。僕は暁大好きだから」


頬ずりすると、暁が頬ずりをし返してきた。


この娘のために生きていけたらいいな、と心から思っていた。
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