天満つる明けの明星を君に【完】
小さくて寂れた村だったが、道や建物もきれいで、住人たちは驚きながらも歓迎してくれた。

人に味方をする百鬼夜行の一族が村を救ってくれた――

この出来事は彼らにとって子々孫々自慢できると喜んで、海や山の幸をふんだんに使った料理を沢山振舞ってくれて、天満を慌てさせた。


「あの、僕は当然のことしたまでで…これはあなたたちにとって大切な食糧でしょう?」


「いいえ、気にしないで頂きたい。言い伝えに聞いていた方が村を救って下さったのですから、これ位はさせて頂かないと」


小さな村なのに意外と年頃の娘が多く、天満に見惚れている者が続出していたため、雛菊は何故か焦りながら隣の天満の袖をぎゅっと握っていた。


用意された建物はどうやら来客用でとても清潔にされていて、精一杯もてなされていると思うと嬉しくなった天満がずっとにこにこしていたため、あちこちからため息が続出。


「あの、天満様、そろそろ…」


天満もそうだが雛菊も人見知りで、住人たちに囲まれた食事は喉を通らず、しかもぎらぎらした目で天満を見られているとあってはやはり落ち着かず、くいっと袖を引っ張った。


「すみません、ちょっと疲れたようなのでそろそろ…」


「これは失礼いたしました。どうぞごゆっくり」


若い娘たちは後ろ髪を引かれながらも皆に背を押されて退出した。

そこでようやく小さなため息をついた天満、ぼそり。


「ああ怖かった…」


「ふふっ」


天満は女が苦手。

もし自分が天満だったら、その顔を武器に遊び放題するかもしれないと思うとおかしくなって笑みが零れた。


「雛ちゃん?」


「天満様、全然目を合わせなかったね」


「うん、こう、頭からぱくっと食いつかれそうで」


それは天満の口癖で、またおかしくなってずっとくすくす笑っていた。
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