天満つる明けの明星を君に【完】
暁を見つめる天満の眼差しがあまりにも優しいため、ついうっとりしてしまった芙蓉は、朔に脇を小突かれて軽く睨まれると、はっとして咳払いをした。


「暁、母様のお膝に来なさいな」


「ぶぅー」


いやだと言わんばかりの声を上げられて今度は芙蓉が頬を膨らませると、天満は小さく笑って身を乗り出した。


「そういえば朔兄と芙蓉さんは最近ずっと蔵に籠もりっぱなしですけど何してるんですか?僕が聞きたがりで知りたがりなのがばれたのでひとつ教えてほしいなー」


朔と芙蓉は顔を見合わせた。

そして芙蓉は俯き、朔は腕を組んで晴天の空を見上げた。


「今はそうだな…百鬼夜行を始めた初代が書いた書物の書き写し作業をしている。ちょっと傷みかけてて、本当は俺がしないといけないんだけど面倒くさくて芙蓉にやってもらっているんだ」


「へえ?芙蓉さん蔵から出て来た時いつも目が真っ赤ですけど…悲しいことでも書いてあるんですか?」


「そう…ね…。初代が体験した全てが書かれてあって、妻に迎えたふたりのお嫁さんとあと………ごめんなさい、この話はちょっと」


「すみません、無理矢理になっちゃったかな…。じゃあ朔兄も書いてるんですか?芙蓉さんとの恋物語とか」


「もちろん後世に遺すため書いてる」


「朔ったら見せてくれないのよ。私の悪口書いてたらどうなるか分かってるんでしょうね?」


ははは、と乾いた笑い声を上げた朔が頬をかくと、天満はうとうとし始めた暁をまた我が子でも見ているかのような優しい眼差しで見下ろした。


「暁が当主になった時も書くんですよね?僕のことも書いてくれるかなあ」


天満が耳に少し長い前髪をかけた。

その時に紅玉の耳飾りをつけているのを見た芙蓉はそれが妻の形見だと知っていたが、天満が自ら話してくれるまで待とうと決めていた。


「僕からお乳が出たらあげられるのに。出ないかな」


「気持ち悪いこと言うな!」


雪男に苦笑されて、しょんぼり。
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