天満つる明けの明星を君に【完】
風呂も狭いがちゃんと完備されていて、熱い湯に浸かってほかほかになった雛菊は、新品の浴衣に袖を通して天満の元に戻った。

…だが天満はどこか途方に暮れた顔をしていて雛菊が首を傾げると、隣の部屋を指した。


「ちょっとあれは…どうかなあ…」


「何が?」


隣の部屋の襖を開けると――そこには一組の床が敷かれていた。

一組…つまり夫婦と思われてしまったのか、さすがに雛菊も茫然と立ち尽くしてちらりと天満を見遣った。

天満は目を泳がせていて、ぽんと手を叩いた。


「僕は別に寝なくてもいいし、雛ちゃんが使っていいよ」


「そ、それは駄目です。天満様は私をここまで運んでくれたんだし、山猫退治もしてくれたんだから、天満様が使って」


「いやいや、それは駄目だよ。横になるときっとすぐ眠れると思うから雛ちゃんが…」


ふたりで押し問答したが、どちらも折れず。


「わ、分かりました!じゃあふたりで寝よ!」


「…えっ!?ちょ…雛ちゃん、それはまずい…」


「私!天満様を信じてるから!」


…つまり、男として意識されてないと分かった天満は、それでも渋り続けていた。

何せ…妹以外の女と床を共にしたことはない。

妹の時も寝かしつける子守役で、実際問題身内以外の女と床を共にしたことなど、ただの一度も…


「ええと…とりあえず僕も風呂に行ってきます…」


雛菊は床の上にぺたんと座ってこっくり頷いた。


…互いに異常に意識してしまって、頭から湯気が出そうになっていた。

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