天満つる明けの明星を君に【完】
家に戻った天満は、玄関の軒先に大量の文をくわえた式神の鳥が来ているのを見つけると、屈んでその文を受け取った。


「ご苦労だったね、ありがとう」


文を受け取ると式神の鳥は紙に戻り、それを懐に入れた天満は家に入って欠伸をした。

目が冴えまくってしまって一睡もできなかったため、さすがに少し眠たい。

文に目を通さなければいけなかったが、とりあえず仮眠しようと自室で横になると、すぐ睡魔に襲われた。


死んだように眠っているうち陽が暮れて、誰かが鍵を使う音がして目を覚ました。

それが誰だか分かっていた天満がそのまま動かず目を閉じていると――傍にそっと誰かが座った気配がした。


「ふふ、よく眠ってる」


眠ったふりをするのは存外難したかったが息を殺してじっとしていると――雛菊が髪を撫でてきて、全身泡立つような感覚に襲われた。

実際総毛だった天満は寝返りを打つふりをして雛菊に背を向けたが、雛菊はさわさわ髪を撫で続けていて、顔が赤くなるのを感じた。


「ううん…」


「あ…起こしちゃったかな…天満様、おはようございます」


――天満様。

誰に真名を呼ばれてもどうも思わないのに、今この瞬間雛菊に真名を呼ばれて、またぞわっとした。

幼い頃にも確か同じ感覚に襲われたことがあるが――理由は分からない。


「雛ちゃん…おはよう。もう夜なの?」


「はい。私も寝てきたから夕餉の準備をした後お手伝いしますね」


「何もされなかった?」


「うん。お姑様に怒られたみたいで、今日はなんにもされなかったよ。…あ、私別に旦那様に何かされてるわけじゃなくて…」


「いいや、もう分かってるよ。雛ちゃん、今後君が若旦那に暴力を振るわれないように僕も対策を考えるから、安心して」


「…ありがとう、天満様」


ぞわり。


天満が身震いすると、雛菊は心配そうな顔をして天満の額に手をあてた。


「寒いの?熱でも…」


「!い、いや、なんでもないよ。顔を洗ってくるね」


逃げるように庭に出て井戸から水をくみ上げると、冷水で顔を洗った。


自分は何かがおかしい。

兄に相談しなければいけないと思った天満はその後筆を取り、朔に文を書いた。
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