天満つる明けの明星を君に【完】
天満単体でも悪目立ちするのに朔が一緒とあっては、半ば狂乱状態は免れない。

しかも天満だけでなく朔も独り身であり、噂を聞きつけた年頃の娘たちがこぞって天満の家の近所をうろついており、熱い目で見つめられて天満は俯いてばかりだった。


だが朔は堂々としたもので、うまい具合に娘たちと目を合わすことなく辺りを見回して肩を竦めていた。


「少し奥へ入るとだいぶ田舎になるんだな」


「朔兄、若旦那に会ってどうするんですか?」


「どうもしない。だが一度会うことであちらは‟やばい”と思うだろう。それが抑止力になればいいんだけど」


「ふうん…なんだか色々突っ込みどころ満載ですけど、僕自分で探しますから話さなくていいです」


天満の頭をぐりぐり撫でた時、周囲から黄色い悲鳴が上がった。

ゆっくり散策をしたかったが見世物状態はどうにも解消できず、天満が朔をがっかりさせたくなくて勇気を振り絞って娘たちに声をかけようとした時、朔がそれを止めた。


「天満、いい。大体見て回ったから戻ろう。もう少しすれば百鬼たちが到着するから娘たちも蜘蛛の子を散らすように居なくなる」


「ところで朔兄はお嫁さんを貰わないんですか?さっき僕のことをいい男だって言いましたけど、朔兄はそんな表現飛び越えてるんですから、早めに所帯を持たないと娘たちが可哀想ですよ」


「ははっ、そうだな、俺はまあ…晩婚になりそうな気がしてる。それよりもお前だぞ。如月の次に所帯を持つのがお前であるといいな」


「今まで所帯を持つとか考えたことなんてありませんでしたけど…」


「今から考えるといい。天満、猫又の手入れをするから手伝ってくれ」


庭で寝そべっていた猫又に近付いた二人は、大きな櫛を手にふわふわの毛を梳いてかかった。

家の中をちょっと覗いてみたが絶賛掃除中で、手伝おうかと声をかけたがやんわり断られたため、ごろごろ喉を鳴らして腹を見せた猫又をふたりして撫で回した。


「僕も百鬼夜行、ついて行こうかな」


「うん、乗り物もあるから雛菊も連れて行こう」


きゃっきゃと庭で騒いで掃除中の雛菊をくすくす笑わせた。
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