天満つる明けの明星を君に【完】
夕暮れが近付くと、鬼陸奥には続々と百鬼が集結し始めていた。

事前に今夜だけは鬼陸奥から百鬼夜行が行われると住人たちは聞いていたため目立った騒ぎは起きなかったのだが――

それでも一騎当千の強者揃いな百鬼が集団で現れると、壮観であり、また恐怖も感じる。


「主さまは本当に弟君に甘いんだからなあ」


「否定はしない。今夜は俺が当主の座についてはじめて北方面の視察及び討伐をするんだ。お前たちに教えてもらうことも多い。頼んだぞ」


集まった百鬼の前でよく通る低い声で教えを請い、頭を下げた。

するとどっと歓声が沸き、百鬼それぞれが発する強い妖気に慄いた雛菊は、ずっと猫又の尻尾に巻き付いて震えていた。


「見た目はあれだけど、怖くないよ。みんないい連中だから安心して」


「う、うん」


「雛菊は天満と共に猫又に乗れ。天満、あまり前方に来るなよ。絶対怪我させるな」


「分かりました」


目を閉じてすうっと息を吸い込んだ朔は、かっと目を見開いて元々ある目力をさらに輝かせて号令を出した。


「お前たち!行くぞ!」


「応!」


朔が先陣を切って空を駆けると、次いで猫又がぴょんと跳ねてその後を追った。

それはものすごい速さで、天満の後ろに乗っていた雛菊はずっと細い身体にしがみついて目を開けられずにいた。


「雛ちゃん、見て。今夜は月も星も明るくてきれいだよ」


「え……わあ、本当…」


なんとか目を開けて空を見上げると、燦然と星が輝き、大きな満月が冷ややかながらも心が落ち着くような光を降り注いでいて、見惚れた。


何に見惚れたかと言えば――そう言って肩越しに笑った天満に見惚れた。


「天満様、怪我しないでね!」


「うん、もし敵が向かって来たら目を閉じていて。すぐに終わるから」


天満が戦う姿は美しい。

絶対目に焼き付けてやると誓いながら、また天満の身体にしがみ付いた。
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