天満つる明けの明星を君に【完】
百鬼夜行が現れた――

まだ若い当主が視察にやって来たことで敵対勢力は力をつける前に叩き潰してしまおうと、わらわら群がって来た。

馬鹿にされたものだ、と小さく呟いた朔は、すらりと刀を抜いて襲い掛かって来る敵を一閃した。

それだけで血しぶきを上げて地上へ落下してゆく様を見た雛菊は、朔の壮絶なまでに美しい横顔を見て身震いをした。


「すごい…主さま…」


「でしょ?僕たちの朔兄はすごいんだから」


何故か自慢げにそう言って胸を張った天満がおかしくて笑っていると、天満は静かな笑みを湛えて肩越しに振り返った。


「ごめんね雛ちゃん。戻って来れなかったのにはそれなりの理由があるんだけど…訊きたい?」


「天満様が話したいのなら…」


「そっか。じゃあ決心がついたら話すよ。絶対話すから待ってて」


「うん。…きゃっ」


突然真横から突進してきた翼のある人型の妖に刀を向けられると、猫又が急旋回してそれを避け、いつ抜いたのか分からなかったが、天満がそれを素早く薙いだ。

目の前で血しぶきを上げて目の光を失いながら落ちていった敵を見てしまった雛菊が震え上がると、天満は少し後方に下がって百鬼夜行の中心部に紛れた。


「怖かった?ごめんね」


「ううん。天満様…こういうの慣れっこ?」


「うん、そういう家に産まれたから。でも次兄の輝兄は戦うの嫌いだよ。みんな戦いが好きってわけじゃないよ」


宿命づけられた家に産まれて、それが当然だと言い切った天満。

それが正しいのかどうかは外野がとやかく言う話ではなく、ただただ雛菊は天満にしがみ付いて温もりを与えた。


「ひ…雛ちゃん?その…あたって…ます…」


「?何が?」


「えっと……なんでもないよ。なんでもない!」


結局意味は教えてもらえず、さらにぎゅっと抱き着いて天満を大慌てさせた。
< 95 / 292 >

この作品をシェア

pagetop