天満つる明けの明星を君に【完】
どうにも背中にあたるやわらかいもののせいで気が散って仕方がない天満は、前方で乱戦が起きていることを知ると、急に目に光が宿って猫又の腹を軽く蹴った。


「雛ちゃん、しっかり掴まってて。朔兄の加勢をしないと」


「うんっ」


一気に集中して二振りの刀を抜いた天満は、加速した猫又の軌道を読みながら手近に居る敵を次々と斬りつけて屠っていった。

足の速い猫又は敵が集団で固まっている場所の後方に一気に回り込み、恐慌状態に陥った連中がわらわら四方に逃げ出すと、それらを一人残さず片付けていって、なおかつ雛菊の方へ血が飛ばないよう気を遣いながら器用に戦って朔をにやりとさせていた。


「あいつ腕が上がったな」


次男の輝夜もかなりの腕だが、もしかすると天満はその上をいっているかもしれない。

猫又に乗らず単騎で駆ければもっと速く強いはずだが――雛菊を釘付けにするには十分なようだった。


「朔兄!この辺あらかた終わりました!」


「ん、お疲れ。その様子だとまだいけるな。もうちょっと奥まで行こう」


「ええ…っ、まだやるつもりですか…」


「いいとこ見せたいだろ?気張れ」


近寄ってきた朔が猫又の狭い額を撫でながら天満にひそりと声をかけると、天満は唇を尖らせながらもじっとり頷いた。


「頑張ります…」


「すでにお前に釘付けだった。落ちるのは時間の問題だ。俺は楽させてもらうから、後は任せた」


「よ、よし…。朔兄はどしっと構えてて下さい。僕が頑張る!」


「雛菊、嫌だったらお前は降りてもいいぞ」


朔がわざとかまをかけると、雛菊は目を大きくしてぶんぶん首を振った。


「だ、大丈夫ですっ」


「ん。じゃあ楽しんで来い」


朔に微笑まれて顔を赤くすると、それに目ざとく気付いた天満は猫又の腹を軽く蹴って前方に飛び出した。


「先に行って見て来ますね!」


「ふふ、心の狭い奴め」


面白くて仕方がなくて、刀を鞘に収めた。
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