天満つる明けの明星を君に【完】
天満の華麗な戦いぶりは敵に十分戦慄を与えたらしく、しばらくすると蜘蛛の子を散らすようにして退却していった。

本来は朔が先陣を切って戦わらなければならないのだが――今回においてはまるでその気がなかった朔は、戦いを終えて寄って来た猫又の喉を撫でてやりながらちらりと二振りの刀に目をやった。


「血糊も全くついてないな。父様め、こんな業物を天満にやるなんて」


「朔兄には天叢雲があるじゃないですか。そんなこと言うと臍を曲げてしまいますよ」


朔の刀にも自我があり、実際天満の刀を褒めると不満げに鼻を鳴らす音が聞こえて肩を竦めた。


「後で労ってやる。さあ戻ろう。今日こそ雛菊の夫に会って一瞥くれてやらないとな」


「あの、主さま…どうか騒動だけは…」


「見るだけ。言葉を交わすつもりはない」


そう言って踵を返した朔がさっさと帰路に向かうと百鬼たちも後に続き、天満たちは最後方でしんがりを務めた。


「天満様」


「うん?」


「かっこよかった。怪我してない?」


褒められて顔が赤くなるのを感じた天満は、髪をがりがりかき上げて頷いた。


「この程度じゃ怪我なんてしないよ」


「この程度って…一時は取り囲まれて大変だったでしょ?ああいうのも日常茶飯事?」


「百鬼夜行じゃ普通の光景だね。怖かった?」


「うん、ちょっとだけ。でも天満様が庇いながら戦ってくれたから大丈夫」


――朔から雛菊に好かれていると聞かされてからずっと意識し続けていた天満は、腰に回された雛菊の手に恐る恐る手を重ねて握った。


「雛ちゃんが居てくれて心強かった」


「ほんと?じゃあまた連れて行ってね」


「うん」


心がふわふわして、ふたりでふわふわしながら朔の後を追った。
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