イヤホン越しの恋人。
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3月某日
友人である里香が心配して『お昼でもどう』とLINEをくれた。
ヒロが居なくなってから1ヶ月が過ぎて、相変わらず寝れず、食欲も全くない私に、里香は何度かLINEをくれてはいたけど、家庭があって小さい子供がいる立場なのでなかなか時間が空けられなかったみたいだ。
2歳になったばかりのトモ君が大変だから。と、里香宅にお邪魔する事になったので、私は手土産に里香のマンションの下にあるケーキ屋で、里香が好きそうなケーキを選んだ。
「気つかわんでもええのに!さぁ入って!汚いけど」
ケーキを受け取った里香の笑顔がすごく暖かくて、目の奥がじんわりと熱くなる。
甘えた様子で里香の脚に纏(まと)わりついているトモ君は、前回会った時よりも随分と大きくなったな、と思いながら、家の中にお邪魔した。
里香が嫁いだ先はお金持ちで、駅近のマンションは高級物件でもある。
汚いけど、なんて言うけど、ハイセンスな家具と広々としたリビングからはパノラマウインドウに囲まれていたりする。
この広々とした窓から俯瞰(ふかん)した景色を見て、お金持ちって最上階が本当に好きなんだ。って、思ったっけ。
「適当に座って」
なんて言いながら、里香はカウンターの向こうでケーキの箱を冷蔵庫に仕舞った。
トモくんは里香にぴったりくっついている。
「ありがとう」
わたしはダイニングチェアーを引いて、上着とカバンを置いた。