イヤホン越しの恋人。
後ろから射し込む日差しが身体を包みこんで、とても温かい。
もう春はすぐそこまできてるのだ。


「前まで挨拶してくれてた人とかさ…あきらか態度違って…」
指先でテーブルをなぞった。

「確かに…あの人は愛想いいなと思ったもん」
「え?」
「ほら、前にデパートで会ったやん?」


箱を戸棚に仕舞う。
以前里香家族と、いつも利用するデパートで遭遇した時の事を思い出して「あぁ」と、頷いた。

「暴言吐くなんて思えないくらい物腰柔らかやったからなぁ。かなは、そんなタイプちゃうから傍(はた)からみたら確かに……ってところはあるわな」

マグカップを2つカウンターに置いた里香が、ぐるりとこちらへと回ってきて、マグカップを卓上へと置いた。
スプーン入のマグカップからは湯気が泳いでいる。

「ミルクなしでよかったやんな」
スプーンでかきまぜながら腰掛けた。
「あ、うん。いただきます」
と、スプーンを指で摘んだ。


「生活費もいれてくれへんとか、人の文句ばっかりで…あとなんやっけ?」
マグカップを持ち上げて口をつける里香に


「時間にルーズで浮気もして、あとは酒乱と束縛が酷かったな」
スプーンをマグカップから抜き取ると、すぐさま里香が手を出てきたのでスプーンを手渡した。


「最悪やな。よう4年間も耐えたな」
ティッシュを2枚ほどテーブルに広げて、そこに2つのティースプーンを置く。


「普段は優しいとこもあった…「それがあかんねん!」

里香がわたしを睨んだ。
……あぁそうか。


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