人形の君に心をあげる。



いいや、俺だったらそんなことは言わない。



だってそうだろ?


もし本当に俺を助けようとそんな提案をしたのならば、順序がおかしすぎる。



まずは、けがの手当てを優先するはずだ。


そんな話をするのは、俺が回復するのを待ってからでいいだろう。



そして、そのうえでどうしてあんな状況に陥ったのか聞いて...





...聞いて......




俺の中にあるかすかな違和感が刺激される。




それから、俺の状況...俺が家や仕事がないことを知って、不憫に思った男は俺に、『うちで働かないか』と声をかける......?





って......



あれ...?




なんかこれ、おかしくないか?





俺はあの時、男に自分の境遇なんて話してない。

話をする余裕なんてなかった。



目が覚めてからもそうだ。


俺は誰にも自分のことなんて話してない。

あの、辻堂とかいう男にだって聞かれもしなかったんだ。


当然話してなんかない。




...じゃあどうして、あの時、あの男は俺にあんなことを言ったんだ?




< 58 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop