人形の君に心をあげる。

君の知らない話をしよう∼1∼




彼、由比愛也くんが屋敷の中に入っていくのと入れ違いに、その男は木の陰からひょっこりと姿を現した。



「...立ち聞きはよくありませんね」



男を横目に見ながら、元の作業に戻る。




男はそう言う私に、申し訳ないとでもいうかのように軽く頭を下げる。



その行動は、職業柄に加えて、以前の私たちの関係性を考えてのものなのだろう。





「ですが...今のは、少し...」



言葉を選びながら話しているのがよく伝わってくる。



...それでも、以前は私に意見など、しようともしなかったのにね





「これでいいんだ、辻堂くん」



「っ...ですが...」




私の言葉に彼が再び口を開く。




「...」



しかし、私と視線が重なると、すぐに目を伏せ、ぐっと言葉を飲み込んだ。



昔の癖が今もなお、抜けないんだろう。



私はもう...一介の庭師だというのに。





< 80 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop